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ネコメンタリー 猫も、杓子も。井上荒野と松太郎「名前」

一番の早起きは松太郎。20歳。外に対する耐性がないんですよ。内弁慶。

名前

「鳥のヒナみたいな声がしない?」私はそう言っただけだった、確かめてきて、とさえ頼まなかった。
でも入浴して出てくると、夫がそれを連れてきていた。それはヒナではなかった。彼の手のひらにすっぽり入って、まだ十分余裕があるほど小さい、黒白の毛並みの子猫だった。
「向かいの家の門の下に落ちてた」夫は言った。
「どうするの?」私は言った。
子猫は相変わらずヒナみたいな声で鳴きながら、夫の手のひらの中にいた。私はまだ、手を触れていなかった。触れないほうが、いいような気がしていた。
子猫はあまりにも小さくて、オスかメスかすらまだわからなかった。
「どうするって、拾っちゃったんだから飼うしかないだろう」
「拾っちゃったって....」
夫にはそういうところがある。なんでも、ほとんど考えないで決断してしまう。
 彼と暮らし始めて10ヶ月目の初夏だった。遅い結婚だった。お互いにいろいろあって、難しいだろうと思っていたが、今こうして一緒に暮らしている。夫がそうすることを選んでくれたのが嬉しかったが、ちゃあんと考えてのことだったのだろうか、と最近は思うようになっていた。
「まだ目が開いたばかりみたいじゃない?」「育つのかしら」「育てなきゃ」
 夫はキッチンをごそごそ探し回って、うちにある中で一番小さなザルにハンドタオルを敷き、そこに子猫をそっと置いた。それからパソコンを、しばらくカチャカチャやっていたかと思うと、ちょっと買い物をしてくると言って、アパートを出ていった。
 私は髪にドライヤーをかけ、あすポークビーンズを作るために、豆を洗って水につけた。それでもう、今しなければならないことはなくなってしまったので、仕方なく子猫のそばへ行った。....(中略)
小さな黒い目、ピンク色の鼻。鳴くために必死で動かしている口。人差し指を近づけると前足で掴んだ。ゴマ粒みたいな肉球は、ひんやりと湿っていたが、ぷっくり膨らんだ腹には、確かな体温がある..... 

父、井上光晴

言葉重視

ものすごくストーリー重視で書いてらっしゃる方もいるけど、私はやっぱり言葉派なので、言葉を選びますね。ものすごく。言葉重視の家だったので。たとえば「夢みたいに嬉しい」って使ったりするじゃないですか、親の前で。そうすると、絶対父が「本当か?」「夢みたい、ってどういう意味だよ。その言葉の意味わかって言ってんのか」いつもいつも聞かれるような家。そこらへんに私の土台みたいのがある。

家族という奇妙

松太郎は別

人間は複雑だから絶対にわからない。だけど、書くことでほんのひとかけらなりとも分かりたいと思うのが動機かも知れないですね。家族であっても相手の心の中なんて100%はわからないといつも思っていて。それでも一緒に居る関係性。家族ってものすごく奇妙。松はまた別ですね。人間じゃないから。大事さ、異様に大事なんですよね。松と合うまでは使わなかった心の部分を使ってると思うんですよ、松に対して。
ひとつには、自分の心の中にはまだ未知の部分があるのがわかったってことがありますよね。

今回で最終回。もしコロナがなかったら、ひょっとして「選」(再放送)は少なかったのかもしれない。誰かほかの作家が登場する予定だったのだろうか。そんなことを思いつつ。

王様のブランチ 2020.7.25

そこにはいない男たちについて

結婚したくなりました?...昔悪い男の人と付き合っていた時があって、すごいひどい目に遭っていた。だけど彼が一人で旅行に行く度ごとに、飛行機落ちればいいって思ってた(笑)死んじゃえば簡単なのに。かつて愛してた相手がいなくなるのは、どういうことなんだろうと考えたのがきっかけ。

私も結婚していて、今割とうまくいっている。

実質的にいないのと、気持ちの上でいないのはどう違うのだろう。どっちが幸せかというのは、決めて書いたわけじゃなくて、自分が幸せか不幸かっていうのは自分しか決められないと思っている。小説書くときもいつもそういう考えで書いてる。

そこにはいない男たちについて

そこにはいない男たちについて

  • 作者:井上荒野
  • 発売日: 2020/07/15
  • メディア: 単行本
さようなら、猫

さようなら、猫