もみじ17歳、戦友。
幼い頃から、傍らにはいつも猫がいた。今も猫と暮らす。
青磁、楓、銀次
もみじは17歳。特別な猫。
高齢なのでほかの猫とは別の場所で、1日中寝て過ごす。
もみじの日課は仕事場に出勤すること。
人間の心の中のどろどろしたものを、
言ってみればそれに名前をつけて小説に書くと片付けられる。ほんとにこの仕事があってよかった。
デビューは23年前。そのうちの17年をこの子と一緒に。原稿の仕上がりを横で待っててくれて。
いつか、同じ場所
うちな、覚えとる。生まれた時のこと。
めっちゃ狭い苦しいところ、通り抜けたら急に明るうなって
誰かが涙声で「よしよし遠かったねえ」
今やったらわかるわ。あれがかあちゃんやった。
かあちゃんはうちの母ちゃん猫の手ぇ握って、おなかさすって、うちら4人姉妹が生まれてくるたびにお産婆さんをしてたらしい。母さん猫の、そのまた母さん猫の代からの付き合いやそうや。まぁ言うたら、うちらの世話をするための人生、いうこっちゃな。光栄や思わなあかん。
それから17年。
かあちゃんとうちは、ずっと、ずーっと、一緒やった。
時々うちをほったらかして出かけてまうけど、寂しいの我慢して留守番しとったら、案の定帰ってきよる。
そらそやな。かあちゃんは、うちなしでは生きていかれへんもんな。
あのな、ここだけの話やけど
あの人、あほやねん。仕事は、なんや知らん。怪しいことしてはるみたいやけど、男見る目はさらに怪しいねん。ちょっとどうか思うくらい。これほんまの話。
うち、ぜーんぶみてきたんやで。
今までのかあちゃんの、あれやこれや。
ぜーんぶ。いろんなんがおったけど、どうせあかんちゃう思て見てたら、きっちりあかんようになりよる。それでいくと、いまのんはなんぼかましなんちゃう。おさななじみやもん。よう知らんけど。
当然のこっちゃけど、一番にうちを、二番目にかあちゃんを大事にしよるし、うちのごはんは自分のえさより先に用意しよるし、うんこの片付けもサボりよらん。せやからうち、生まれて初めて呼んだることにしてん。
「とうちゃーん」ちゅうてな。ええか、うちのとうちゃんやで。こら泣いて喜ばなあかんで。
たまにベッドに飛び乗ろうとして失敗する。かあちゃんは見んようにしてくれるけど、悲しそうな顔で「勘弁して欲しいわ」
うちまだ大丈夫やし、ピッチピチのセブンティーンやし。
けどなんやろ、めっちゃ眠いねん。
とろとろとろとろねてしもうて、気ぃ付いたら一日終わってるねん。
もしかして最期の日もこんなふうかなあ。
とろとろとろとろ寝てしもて。気ぃ付いたら、全部が終わったあとやったり、すんのかなあ...
何も怖いことはないねんで。
みんないつかは同じ所に行くねんし、行った先で、それこそ留守番するみたいにおったら、そのうちかあちゃんも父ちゃんも来よるやろ。そらそやな。ふたりとも、うちなしでは生きていかれへんもんな。
なあ
かあちゃん、いっつもうちにきくやん。
あんた、かあちゃんとこきて幸せやった?て
うちには幸せなんてようわからん。
けどこれだけはわかるで
かあちゃんはこの世で一番うちのことが好き
うちはいちばん、かあちゃんのことが好き
なあ、それでええやろ?相思相愛や...
もみじ、口の中の腫瘍を切除。外科的な延命治療。船が岸から離れるみたいに送り出してやればいいけど
関連