隠されたものを読み解く
ミステリー
道尾 一言で言うと実験ミステリー。獄門島、八つ墓村、犬神家の一族を書いたあとにこれを完成させてる。名作をたくさん発表したあとにまだ実験ミステリーを書くのはすごい勇気づけられる。
島田 自分が主役を張れる押しの強さをみんな持ってる。オペラミステリーですね。
高橋 どうも横溝がこの作品の中に隠しているものがある。作品自体がミステリーなんで、メタミステリー。じゃあ何を隠しているのかを読み解けと。2日前からそういう意見になりました(笑)
鈴木 人肌ミステリーかなあ、っていう...
高橋 おいしそう(笑)
鈴木 心とかよりももっと肉体的なものを感じるというか。エロティックだし肌がこすれあって傷つけ合う
島田 新しい概念(笑)人肌
天皇制
高橋 横溝の隠されたモチーフは天皇制。天皇家自体がほとんど政治にタッチしてないですね。うたを作るか楽器か、どっちかなんですよね。これはやっぱ横笛だろうと思うと、また違って見えてくるのかなあという気がする。実際に曲を聴いてみてどうですか
道尾 やっぱり文章のほうがいい(笑)クラシック相手にそういうことを言っちゃいけないですけど、横溝さんが書いた文章の方が迫力のある曲だった気がします
帝銀事件、高木元子爵失踪自殺事件
高橋 帝銀事件を入れたのは、もうひとつの事件を隠すためという説。執筆が1948年8月から始まっているんですね。2か月前に太宰治が自殺してる。7月に高木元子爵失踪自殺事件。娘が三笠宮の奥さん。入江侍従長のお姉さんが妻。だから家族の中で最も権力があった人が突然失踪して自殺した。3ヶ月後に東条英機が死刑。年譜見てると自分的には新発見。
島田 チャレンジングですよね。出来事の時間の経過があまりない中で、ほぼ同時期に書いてる。参考にしつつ自分なりの展開を書いていくってことだから。
高橋 だからメタミステリーって言ったの。高木子爵事件を隠すためにこういう言い方をしたの。貧しくなった家族の悲劇。
玉虫家、新宮家、椿家
椿三禰子、秌子
鈴木 男性キャラクターに好感を持てる人が本当にいない印象がすごく強くて。強欲な人ばっかり。
道尾 唯一、三島東太郎だけがまともな青年。椿美禰子がですねえ
容貌はお世辞にも美人とは言いにくい。かなりのおでこである。それに目が大きすぎるところ、頬から顎へかけてこけているので顔全体の釣り合いが取れない。
道尾 いわば彼女は物語のヒロインなんですよね。そのヒロインをこんなに冒頭から悪しざまに書くのも珍しい。
島田 まず秌子に対して金田一が抱く印象が異様というか、文字で書いた通りの女の人がいるとしたら会ってみたい(笑)そもそも秌子(アキコ)って読めないでしょ。
鈴木 秌子さんの怖さって、心が最後まで結局見えない。
高橋 無いんだよ。ちょっとこれ読んでて思ったのは、滅び行く貴族ってひとつ大きいドラマであるんですね。必須のキャラクターが、老いた女性の家長。
金田一耕助は、この婦人をひとめ見た刹那、
何かしら体中がムズムズするような不健全なものを感じずにはいられなかったのである。
島田 ラネーフスカヤ(桜の園)とか
高橋 そうそう。滅びゆくものへの哀悼の意がテーマなんだけど、哀悼してなくて、秌子っていう肉欲の塊
鈴木 わたしはもう、俄然菊江でした。読んでいくうちに、この人が一番真っ当。その年代の生き方の自分というものを持っていて、一服の清涼感みたいな
...菊江はいつも、人を食ったような微笑を浮かべている。こういうのをアプレというのであろうと....
島田 アプレという言葉が出てきましたけど、ちょっと跳ねっ返りの、やけっぱちな感じの。結婚相手も自分で決めるみたいな。
高橋 要するに戦前の価値観を持ってる人から見ると、非常に性的にもだらしない連中で、総称してアプレゲール(戦後派)。性の解放の側面、秌子は逆にうちに閉じこもったエロティック。ものすごく退廃的ですよ。
金田一はなぜ西へ
鈴木 結構、金田一さんが西へ行ったのが衝撃。だって殺人事件まだ起こるじゃん!
高橋 そらもう、起こすためだよ(笑)だって止めないもんね。金田一さん基本的に
道尾 そうですね。今回は金田一の不在が舞台を回す、ちょっと珍しいパターンなんですよ。いないことで新たな犠牲者が出た。別荘跡地で「悪魔ここに誕生す」を視点人物の視点で書きたかった。あれが誰かから聞いた話だと全く盛り上がらない。リアルタイムで発見させたかったんじゃないですかね
ここまでで番組の約半分。