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【感想】Eテレ 猫も、杓子も 角田光代とトト 任務十八年

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任務十八年(抜粋)

さて、任務が終わったので帰ることとなった。
借りていた衣を脱いで、もといた場所に帰る。
この衣をすっかり脱いでしまったら、私達は、人間界とは無関係になる。
本来わたしは、時間という概念からは無関係だから、今より先のことを考えたりはしないのだけれど。
わたしたちの派遣先である人間は、いまより先のこと、今より昔のことを繰り返し繰り返し考える生き物だ。

今、起きていないことや、存在しないものを思い描いては
怖がったり不安になったりしている。
ずっと前にやったことや、起きたことを思い出しては
後悔したり落ち込んだりする。
先のことも前のことも考えなきゃいいのに、それがどうしてもできないみたいだ。
だから私の任務先であるさくらさんも、わたしがやってきた時から、わたしがいなくなることを思い描いていたのだ...
(中略)
わたしたちはきっと衣を借りて、担当の、人間のところへ行くから
ひとりで行くこともあれば、きょうだいや、親子で行くこともある。
目が合って念を送ると、人間は、わたしたちをいとも容易く招き入れる。

情報は、報告書を提出すること。
謀略は、ともかく、自分の力ではなにもしないこと。
なんでも人間にやってもらうこと。
情報とか謀略とか、言葉は悪いが、私たちが基本的に行なっているのは
平和的活動だ。
その証拠に、私たちを迎え入れた人間は、9割がた
平和的活動をするようになる。

私たちが額から発する、睡眠誘発剤を無自覚に吸って
すやすや眠り込むだけで、人間の心は平和になるのだ....

感想

実家は15年前まで、ずっと猫を飼っていた。
あの世で表彰されているだろうか。三匹の猫たち。
思春期から社会人までは白猫ペルシャと仔猫。
ペルシャは15年ほど任務期間があっただろうか。
子猫は短命で拾った時は病気持ち。半年の短い任務だった。
結婚して家を出て、坊主が幼い頃までいたのはチンチラペルシャ
シャンプーの好きな猫も居たし、掃除機で遊ぶのが好きな猫もいた。

猫たちの最期の瞬間はしっかり覚えている。
いつも母の腕の中でバスタオルにくるまれていた。
祖母や叔父の最期を看取ったことはない。間に合わなかった。
飼い主の高齢化で、任務を与えられてやってくる猫はもういない。
みじかい任務であるとわかっているからだろう。

ずっと記憶の片隅にしまわれていたものがひっぱりだされたようで
すこし悲しくなった。

ねえねえ、
またいつか衣をまとって、あなたのもとへ派遣されるから待っていてよ、と
物陰からわたしは言いそうになる。
でも言わないのは、おんなじことを
さくらさんもまた、思っていることがわかるから。
さくらさんもいつかまた、わたしが自分のところに戻ってくると
確信しているのがわかるから。
あれ?わたし、今より前のことも先のこともわからないはずなのに
思い出しているし、いつかまたわからない先のことを考えている。
ああ、そうか、私は人間のことを視察したかったのではなくて
このことを知りたかったのだ。
時間の概念のないわたしにも、今を作ってきた今までがあり
今がつくるこの先があると
そのことを確かめたかったのだ。