しりあがり寿
四コマ漫画の作り方
田丸 四コマの一つを描くのに、どれぐらい時間がかかるんですか?
寿 あ~、描くのは、お手伝いの人も入れて30分とかですけど、考える時間ですよね。ほんとピンキリ。だいたい風呂入って考えるんですけど、1時間ぐらい入って5分ぐらいで思いつくときもあるし、全然思いつかない時もあるんですけどね。事件があると「あ~こういうこと言いたいな」と思うじゃないですか。でもそうじゃない考えの人とか、そうじゃない立場の人はこう思うだろうな...まあだいたい物事ってそんな簡単じゃないですよね。シンプルじゃなくて。どんな事件でも誰かを悪者にするって問題じゃないものの方が多いような気がするので、一歩引いて、全体の仕組みだったり、背景にあるものだったりを笑おうとか。あいまいにはなっちゃいますよね。わかりづらいかなとか。
田丸 そのへんはシミュレーションとかする方なんですか
寿 ある程度ですね。やりすぎると毒にも薬にもならないものになっちゃうだろうし。コネコネはするよね。文系と理系みたいな、正反対のものをくっつけるみたいな。ショートショートも広い世界があると思うんですけど、その意外性じゃないですか。こんなとこと、こんなとこがくっついたか!みたいな。そういうのが楽しいですね
田丸 普段からアンテナも張られてるってわけですよね。じゃないとか描けなくないですか、時事ネタがあって、何と掛け合わせるかっていう。そこはどうされてるんですか
寿 これ田丸さんに聞きたいんだけど(笑)相当得意じゃない?きっと棚があるんでしょ頭の中に
田丸 そうですかねえ。
寿 棚があって、Aと正反対のBを組み合わせよう、文系と理系だったり、ローカルとグローバルだったり、ものすごく反対の世界のものを重ねようとして。でもそれじゃ当たり前すぎるからちょっとずらすとか、ちょっと置くとか。そんな感じですよね
田丸 はいはい、そんな感じです。そのまま行くと手垢がつきまくってますもんね
寿 そのずらし方ですよね/シチュエーションとのギャップ。メモはね、しないね。おそらく、忘れるアイデアはつまらないんだろうと思って、メモはしてないんですけど。最近、面白いと思ったアイデアも忘れちゃうのね(笑)
デビュー作。あんまり子供っぽいギャグマンガは好きじゃなかった。目のキラキラ、可愛い子が転んじゃったごめんなさいよりはがきデカとかが好きだった。
笑うか笑われるか
寿 一度、ギャグマンガやパロディをやめた時期があったんですよね
田丸 いつぐらいですか
寿 30歳ぐらいになってですかね。最初3冊ぐらいパロディ中心の本出して、それが終わった時に「あ、このままやっててもしょうがねえな」ていうか、何かパロディは権威や既成の価値を壊すものですよね。進んでくと下手すると粗探しとか揚げ足取りになっちゃうじゃないですか。それはねぇ、どうかなって感じがして。もう一回、笑うほうじゃなくて笑われるほうになりたかったの。
田丸 なるほど
寿 まじめな「死」とか描いたり。死ぬってどういうことだろうとか。孤独って何かなとか、そういう漫画を描いてた時期もあるんですよ。うまく描けなかったけど。パロディはほそぼそやってたんですけど、60歳になる前ぐらいから「やっぱり俺パロディ好きだな」ってかんじで、そういう仕事が立て続けに来たんで。また最近は多くなったんですよ。ちょうど還暦でひとまわりした感じ
田丸(パロディを描くのは)80年代や90年代より難しいんじゃないかなと思うんですけど
寿 もともとそれは誰のもんだみたいな話は、確かに80年代に比べてシビアにはなってますよね。北斎(髭剃り富士)は権利がないんで、自由に遊んだりしますけど。昔だったら山だったり川だったり権利のない絵を描くんだけど、僕らもう人の創造したモノの中で育ってきちゃってる。そこに触れるなってことになると、リアリティーがなくなってくる。もう少し単純に、パロディが大変とかじゃなくて、どこが公共の進化のためにはあアリ、ここはダメって、きめ細かなものになってくんじゃないですかねえ
今のテーマは劣化。
田丸雅智
どんな作品を書きたいか
寿 田丸さんにとって、面白いショートショートってなんですか
田丸 長く心に残るものですかね。短いんですけど、それが醍醐味だと思っていて
寿 僕も漫画とか描いてると、面白さってなんだろうって。面白さに成分があるとするじゃないですか。ひとつは驚きとか意外性。何度も読みたくなるのは、きっと驚きとか意外性以外の成分ですよね。そこがうまくいかない。僕も悩みますけど。人の心に種撒くのはいいんだけど、それがね、人の心に根を降ろさないんですよ。なんだよと思うんだけどね
田丸 いやいやそんなことないですよ
寿 どうしたらいいんだろうなあ
田丸 僕の大事にしたいって思ってることは、その方の中で、僕の作品を読んで、そこから始まっていけばいいなと思っていて。たとえば「海酒」でいうと、ガッツリ地元の話を書いてるんですけど、読んだ方からするとなんか自分の地元の海を思い出しました、って。だから僕の作品が媒介になって、その方の記憶が引き出されている。あと原体験をいかに刺激できるかだと思ってて。僕のコアをお渡しするとその方の原体験が刺激されて、ワーッと記憶が広がってく。そういうイメージの作品ができたらいいなとは思うんですけどね。
寿 長い小説を与えられたりはしないんですか
田丸 それもあるんですけどね。でも長い小説だとしっかり書かれますからね。想像の余地もあるんですけど、丁寧に書かれていく作品が多いですから。ショートショートは省略の小説スタイルなんで、空想いっぱいあるんですよね。そこはほんとにショートショートならではだと思います。
ジャルジャルのライブにも出てた
田丸雅智氏のショートショート講座
田丸雅智のショートショート即興ショー #01【ゲスト:カナリア】『袋詰めお母さん』