長い坂の絵のフレーム(1998)
仙人的な緑の血が通っているのか
マキタ:少年時代って、言ってみればある程度年をとったおじさんが少年時代のことを思い浮かべるみたいな歌だと思うなら、これは、少年時代のおじさんがさらに年取ってたぶん、もうゴールテープ間近みたいなところから自分の人生であるとか、自分の周りを通り過ぎていった人たちとか,あるいはもっと歴史とか時代とかをですね。フレームなんて言ってますけども、自分で走馬灯のように絵を刻んでまるで絵コンテを切っていくような感じでですね。作り上げられてるような歌なんですよ。ね
時々はデパートで孤独な人のふりをして
満ち足りた人の思い上がりを眺めて
スージー:すごい詞ですよね
マキタ:毒気を含んだ歌詞で、陽水さんらしい
スージー:斜めから見てる感じの
マキタ:そうなんですよ。陽水さん、だいたい世の中に対してコミットしきらない、関わりきらないところの視点を持ってると思うんですけど
スージー:対象に対してどかーんとぶつかっていくのが吉田拓郎とすれば遠巻きに...
マキタ:そうそうそう、そうなんですよ。超然としてるっていうか仙人的といいましょうか、人間らしさというのか血が通っているのか通っていないのか。赤い血ではなくて緑の血が通っている(笑)地に足がついてるようで5センチぐらい足が浮いてる
スージー:昔からこういう感じ
マキタ:僕もそんなに陽水マニアじゃないけど、聴き比べてみると老成していたのか、若々しさに欠けるのかもしれないし、あるいは人間らしさに欠けるのかもしれない。この歌は説教くさい感じなんだけども、それほど説教臭く聞こえないのが陽水さんらしいっていうのかな。経年変化で、年を取ってって「人生てさ~」てやると煙たいだろ?
いっそセレナーデ(1984)
独特な浮遊感
マキタ:陽水さんらしさは、コードのところですね
スージー:Amで「あまいくちーづけー」のところの「ちー」のところですね
マキタ:Am7て言うんだこれ。「ちーづけー」のところにAm11
ちーのところが
スージー:ラドミ和音じゃなくてレ
マキタ:外れちゃってるところが「とおいおもいで」のところの独特な浮遊感。スレスレの間違ってるのか間違ってないのかってところの変な響きによって「あまいくちーー」どこいったの?みたいな(笑)ケサランパサランかお前は。ふわふわしてる
スージー:空中浮遊みたいな
マキタ:空中浮遊の存在感や歌の世界、歌詞の世界でも見られる浮遊感と音楽的にも浮遊感を演出している
スージー:いっそセレナーデは第二次井上陽水。ナインスとかイレブンの不協和音で形成されてる気がしますね。
マキタ:いわゆるテンションですね。こういう音楽的な仕掛けがあることでなんとなく妙な心持ちにさせてくれる曲。
16才の頃に流れていたCM
【懐かしいCM】 サントリー角 井上陽水 いっそセレナーデ
少年時代(1990)
おじさんの為の曲
マキタ:いい曲ですし、この曲は陽水さんを語る上で広い層に一番知られてる。でも陽水さんなめんなよって。フツーのいいおじさんみたいな感覚で始まってるわけ。イントロだけ聞いてると「ラジオ体操第一!」みたいな感じじゃないですか(笑)規則性とか、清く正しくみたいなことが全部詰まってんだけど、途中で「夢はつまり~」から「あれあれ~」油断できない。しかも歌ってる内容が、おじさんが寝てる時に少年時代を思い浮かべたりでもあの頃には戻れない、諦観、あきらめ、そういうものがふと襲って来る感じとか、おじさん、わかるんだよ!笑)
すっごいわかるんだよこれ!これを小学生が歌って、ってショックだったよ俺。わかるわけねえだろ!焼酎を喉潰れるまで飲んでからじゃないと分かんねえんだこんな歌。
スージー:夏は過ぎ 風あざみ あれ造語らしいですね井上陽水の。小学生が一生懸命歌ってて
マキタ:新語ですよ、あれ。歌いたいメロディ、気持ちよさが彼の中にはっきりとあるんでしょうね
スージー:もっと言えば伝えたいメッセージはあまりない、と。
マキタ:強いて言うと意思としてはとらわれたくない
スージー:定義されたくない
飾りじゃないのよ涙は(1984)
中森明菜
マキタ:この曲はたまりませんね。半音のところとか「なーいたりーするのーは」
スージー:半音だ
マキタ:何回も、多用するんですよ
スージー:それに拍車をかける萩田光雄のたららららら何が出るかな何が出るかな(笑)
マキタ:車乗ってるとき後ろから追いかけられてるみたいなパラリラパラリラ、暴走族、スリルとサスペンス感が不安を増幅させていきながら、ストレートな所に向かう気持ち良さ。絵が狭かったのがぱっと広がる感じがするんですよね。きりきり舞いのコーナリング、曲がって曲がって...「飾りじゃないのよ涙は」ブワー(笑)ストレート!シャーって感じ
スージー:松田聖子さんでいえば「ハートのイヤリング」の頃ですからね
マキタ:聖子さんと明菜さんのデッドヒートがある。だんだん聖子さんの人気落ち着いて、逃げる中で、明菜さんがグッと来る
スージー:翌年の1月10日のザ・ベストテンは、2位から4位を飾りじゃないのよ涙は、恋の予感、いっそセレナーデ。井上陽水2位3位4位。井上陽水時代が来るんですよね
17才の頃レコードを買った。ワインレッドの心も飾りじゃないのよ涙はも収録。今も時々聴いてる