イノサン
なぜ死刑執行人を主人公に
中島:なんで死刑執行人のサンソン家に、的を当てたのかなあ
坂本:前作が登山漫画を描いていて、登山という行為は自分から苦しいところに足を踏み入れていくものだったので。終わった時にもっとハードルの高い、苦しみや困難を真正面から向かい合うキャラクターにしたいと考えていて。たまたまイベントで呼んでいただいているフランスで取材をしてるうちにサンソン家の存在を知った。処刑人の家に生まれてしまったら、処刑人として生きていかなければならない。好きで山に登ることを受け入れるのではないキャラクターは、より高いハードルを課せられるのではないか。
世の中の不条理
中島:もともとそういう痛みを描き続けている?
坂本:漫画家生活長くて、最初からうまく表現することができなかったんですね。漫画って、面白いもの売れるものを、まず要求されるので。じゃ、売れる漫画ってなんなのか、そういうことに軸を入れて考え出すと、本当の自分を見失って、なかなかうまくいかないなと思っていて。漫画を描くのは、根源的に家にずっと一人でこもる作業なので、そんな生活がずっと続いて。妻と結婚して子ができると、いろんな人と出会って話をしたり、世の中がどうなっているのか、ダイレクトに伝わる瞬間がたくさんある。そこから変わりましたね。
才能で勝負する世界は男女関係ない。女だろうが男だろうが子供だろうがおじいちゃんだろうが、面白いものが描ければチャンピオン。今まで気づかなかった、女性という部分の辛さをダイレクトに受ける瞬間は、結婚すれば姓を変える、子供を預ければ、病気になれば引き取りに行かなければならない。必ずかかってくる電話は自分ではなく妻。漫画での正義や悪には収まらない、世の中の不条理が社会に出ることでどんどん大きくなっていった。苦しみや困難を主人公に代弁してもらった時に今のスタイルが出来てきた。苦しみを感じているのは、今を生きている証。
漫画との出会い/続けられた理由
中島:正直読んでいると、普通の漫画では描写されないことがいっぱいある。マリーも真っ白でも真っ黒でもない。きっと一番素直なのがすごい伝わる。私はグレーでいいやと思ってるんですけど、たまたま共通することがいっぱいあってすごく嬉しかった。 漫画家にはなぜなろうと?
坂本:一番最初の出会いは公園に落ちてた「週刊少年ジャンプ」それまで漫画に触れたことはなかった。たまたま開いたページが北斗の拳。よく、電気が、雷が落ちるって言いますよね。ほんとにまさにドーンと落ちちゃって。そっから漫画を描く真似事をしてましたね。でもプロになろうというなんてそんなに思ってなかったかな。
中島:続けられた理由は何ですか?
坂本:なんの覚悟もなかったですね。なにもなく
中島:それ似てる(笑)
坂本:そうですか。親からも自由に、どこへでも行けという感じだったので、人の流れに乗って就職もつまんないなと思って。 漫画でも描こうかという軽い気持ちで投稿したら編集部から電話が。ホントにホントに、隣町へでも行こうかと
中島:あ~すごいわかる!やばくない?言ってる事一緒だ~
坂本:そっから現実を見せられることになって。15~6年日の目を見ないような。だけどその苦労があったからこそ、今の漫画の下地になってるところはたくさんある
中島:勇気がないと、勇気って陳腐な表現で申し訳ないですけど、こういう表現の漫画は
坂本:売れるものを描くという縛りが、とにかく自分の磁石を狂わせる。編集者の求めるものを描いてると、どんどん自分からかけ離れていくそうすると連載しても打ち切り。ジャンプ、10週目に打ち切りをもらって。仕事の苦しいことは慣れっこなんですけど、生きてると想像もつかない苦しみや、こんな壁があったのかと。それも漫画の神様が作品を描けというメッセージと受け取ってますね。
マリーの衣装を羽織ってよろこぶ中島美嘉「元々目つき悪いんで、すみません」ww
擬音を使わなくなった理由
「孤高の人」以降
中島:正直、擬音がないことに気がつかなかったんですよ。なのに、よりリアルだった。物事を理解できるのはなぜだろうと。
坂本:漫画描いてて、一度はやめようと思った瞬間も多々あって、だったら自分のやりたいことをどんどんやっていこうと。日本は漫画という読み物が身近にある。読み方は皆さんご存知だと思うので、読者を信用して読み解いてもらいたい。ある程度信頼関係。遠くで氷の山が崩れる音がする。ガラガラドッシャーンって、文字で書くのは簡単。読者の頭の中で本当の音は必ずあって、呼び覚ましてあげればいいのかなあと。氷の山が崩れるのを描くのではなく、ビルが崩れるのをむき出しでダーンと描ければ。
中島:そう...は~い(笑)
坂本:今回イノサンもアントワネットがツイッターやってる
中島:そうなんですよ。あれ最高と思いました。心無い感じを表現されているのかなと
坂本:そうですそうですそうです
中島:同じこと描いときゃいいのかな、みたいな
坂本:そうです。それが分かってもらえれば。当時のフランスもきっとそういう感じだったんだよと。
中島:最高だと思いました。女子会が出てくるし
坂本:デビュー作が、宇宙船の中でプロレスする話(キース)そっから考えたら、なんか遠いところまで来たな...と
中島美嘉
「いい曲」の基準
1回聞いて「いい曲だな」と思わないと。誰が書いた、誰がどうだというのは全然気にせずに。選曲会というのがあって、名前を伏せて何曲か聴いて、この曲いいって思った曲を選ぶようにしてます。
坂本:好きという感覚を信じる感じなんですね
そうですね。あとはプロデューサーや周りのスタッフが感動しなければ、ファンが感動するわけがない。
坂本:一緒です。絵コンテをまず編集部にデータで送って。一番大事なのは電話かかってきて、ネームの感想のイントネーション。今回手応えなかったかうまくいったか、空気で分かるんですよね。
中島 わかります。落ち込む時もありますけど。うちのディレクターも粘り強いので、自分が感動するまでずっと歌わせる。
私は自分に自信がないんですけど、周りのスタッフが素晴らしいことは自信をもって言えますねさっき漫画家になる予定はなかったとおっしゃってましたけど、私も実は歌手になる予定はなかった。興味はなくはなかったけど。全然ダメだと思ってたんで。