起訴状
被告人のウサギは、親代わりのおばあさんを殺したタヌキへの敵討ちを決意。逃亡中のタヌキに、言葉巧みに近づきました。
まずウサギは、タヌキが背負った薪(たきぎ)に火を点け背中に大やけどを負わせました。そして、その傷口に唐辛子味噌を塗りつけ、更なる苦痛を与えました。さらにウサギは、タヌキを泥で作った船に乗せ、池に沈めようとしました。タヌキは通りかかった村人に救われたものの、一時意識不明の重体に陥りました。
ウサギが犯した罪は、刑法第199条、第203条の殺人未遂罪にあたります。
弁護人:うさぎの言ったとおりです。親のように慕っていたおばあさんを、タヌキに殺された無念さゆえの犯行であり十分に同情の余地があります。刑を軽くして、執行猶予を求めます。
執行猶予:刑務所には入れず今の生活の中で反省させ更生する機会を与える。
証人尋問
検察側証人 タヌキ
おばあさん殺しの罪で既に刑務所入り。
あなたは、うさぎとどうやって知り合いましたか?
タヌキ:逃亡先の村で、突然ウサギに声をかけられました。
あなたは、なぜウサギとふたりで山へ行ったんですか?
タヌキ:お金がなくなって困ってたら「いいバイトがある」とうさぎが教えてくれた。一緒に山へ薪を拾いに行ったんだよ。そしたらいきなりさ....
ウサギが火をつけたんですね?
タヌキ:そうだよ。ホント熱くてさ、そこらじゅうのた打ち回ったよ。しかもその傷口に・・あまりに痛くて、俺、気を失ったんだ。
気を失うほどの痛さ・・ひどいですね。
タヌキ:ホントだよ。俺が泳げないのをいいことに泥船に乗せて池に沈めようとしたんだぜ。俺は助けてくれと何度も頼んだんだ。奴は「おばあさんの敵(カタキ)だ!!」とオールで何度も何度も俺の頭を叩いて沈めようとしたんだ。なのにさ、村人が駆け寄ってきたら「たぬきさんを助けてください」って、コロッと手のひらを返しやがった。
刑務所に入れなくても、うさぎは更生できますか?
おじいさん:できますとも。命ある限り私が責任をもってウサギを監督します。ですから、刑務所に入れるまでもありません。
←※これは、うっかり八兵衛じゃね?高橋元太郎さんじゃないけ?
犯行前、うさぎはどんな様子でしたか?
おじいさん(以下、じい):すっかり落ち込んでいるようでした
たぬきの殺害を計画しているのは知っていましたか?
じい:いいえ、全く知りませんでした。
では、いつ知ったんですか?
じい:ウサギが逮捕されたと警察から聞いてそりゃもうびっくりしました。
あなたねえ、「知らなかった」「びっくりした」一体うさぎの何を見てたんですか?
じい:は?
今後また、あなたの知らないところで、うさぎが罪を犯すかもしれないですよね?
じい:しっかり見ますから。がんばりますよ。
物言いだけはご立派ですね。以上です。
被告人質問
弁護人
あなたとおばあさんは、どんな関係でしたか?
ウサギ:おばあさんは、僕の命の恩人なんです。罠にかかって動けなくなっていた僕を、懸命に看病してくれました。優しい人でした。いつもいつも僕のことを気にかけてくれた。ずっと一緒にいたい、そう思っていました。悔しくてたまりません。
おばあさんが殺された日のことを教えてもらえますか?
ウサギ:家に入ったら、おばあさんは血を流して倒れてました。抱きかかえて「おばあさん!おばあさん!」と何度も呼びました。でも目を開けてはくれませんでした。胸が張り裂けそうでした!!敵を討つことにためらいはありませんでした。敵討ちには失敗しました。あなたは悔しかったのではありませんか?
ウサギ:いいえ、むしろホッとしました。
どうしてですか?
ウサギ:タヌキを殺さずに済んだからです。
あなたの目的はおばあさんの敵を討つことだったんですよね?
ウサギ:そうです。でもこんなことをしてもおばあさんは喜んでくれないと気づいたからです。
あなたは自分のしたことをどう思ってますか?
ウサギ:法に背いたことをしてしまい、反省しています。どんな刑罰も受けます。
検察官:改めてお聞きします。タヌキの背中に火を放ったのは、あなたですね?
ウサギ:はい。
検察官:あなたはタヌキの背中に唐辛子味噌を塗って気を失うほどの苦痛を与えた。タヌキを泥船に乗せ、池の底に沈めようとしたのもあなたですね?おばあさんの敵を討ちたい一心でそこまで追い詰めた。それは相当な執念だ。なのに「殺さずに済んでホッとした」は、ないでしょう?
やっぱり悔しかったんじゃないですか?
ウサギ:いいえ
検察官:もう気は済んだんですね。
ウサギ:はい。
検察官:では今度どこかで、タヌキにバッタリ出会ったらどうしますか?
ウサギ:・・・・。
検察官:殺意を持ってタヌキにあんなことをしたウサギに、同情の余地はありません。未だタヌキへの殺意は消えておらず、反省したとも言えません。同じような罪を繰り返さないためにも、ウサギは刑務所に入って自分の犯した罪をしっかり償うべきです。
弁護人:裁判員のみなさん、ウサギを犯行に駆り立てたのは、親のように慕っていたおばあさんをタヌキに殺された怒りと無念です。ウサギは十分に反省しており、再び罪を犯すことはありません。おじいさんのもとで、罪と向き合うことがウサギを更正させる唯一の道です。執行猶予を求めます。
どっちがいいんだろう
・・・じゃねーよ!!
ウサギは殺すつもりでリンチまがいのことをしたんだぜい。たぶんな。
みな真面目に演じていて、観る側はどうしても笑ってしまう。でもうっかり八兵衛がいると、火サスみたいで重厚感あふれるねえ。
- 作者: オカモト國ヒコ,イマセン,NHK Eテレ「昔話法廷」制作班
- 出版社/メーカー: 金の星社
- 発売日: 2017/09/26
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る