水野良樹
考えていること
今のこの時代に何を書けばいいのだろうか
すごく、根本としてありますよね
自分はこんなふうにかっこいいです、こんな事を思ってますとか
感情を吐露しても、なんの解決にもなんない気がしていて。
いろんな人がいろんな生理を言ってて
いろんな人が戦い合ってて
歌、っていうものに自分の想いを込める、考えを込める
そんな単純な考え方だけで、
分かり合えない人と分かり合えるだろうか
もっと違うやり方があるだろうというのが意識としてあるんですよね。
阿久悠さんが遺された歌詞に曲をつけようということも
させていただこうかなと考えて、ご挨拶に来ました。
よろしくお願いします。
深田太郎(長男)
愛せよ
数多くの作品から選んだのは「愛せよ」
どこから来たのか どこへ行くのか
ぼくはいったい誰か
愛せよ 愛せよ すべて愛せよ
人を...
深田:作曲家さんを驚かせたかったのかなあと思って
水野:作った時の熱量が、スゴーく遠くまで行ったのかと
その熱量が続いてるのかどうかわからなかったりするじゃないですか
ちょっとでもその熱量を残しておきたかったのかなと
飯田久彦
ピンク・レディー/サウスポー
水野:最初スター誕生に出てこられた時って
のちのピンクレディーの派手な衣装、楽しいダンスとは真逆の
ちょっとフォークグループのような二人で出てきた話を
本とかで伺ったんですけど
飯田:最初に阿久先生のところへ行って、
なんか変わったものを作りたいと伝えたんです
水野:それでペッパー警部を
飯田:その次あたりからは先生がね「この子達はタイトルが非常に大事だから」
2作目か3作目かにタイトルを50ぐらい作って選ぼうと
僕がこれで行こうと言うと
「ダメだ、見抜かれちゃう。これを裏切るにはこっちのタイトルだよ」
そういうようなタイトルの決め方
水野:その時には、詞は出来てなかったんですか
飯田:できてない。タイトルだけ。その中にUFOやサウスポー、
ウォンテッドがあったんですね。
僕は一部分だけ直しても障子の張替えみたいで、よくはならないなと
思ったんで、全面とっかえでもっとスピード感のある歌を作りたいと
当然、詞が多くなりますからといったら、阿久先生が
「分かりました、帰ってやるから夜中に来い」
サウスポーの一本足打法ができたんで。
最初の歌詞
まずはカーブでかわし 次は胸元たぐり
ほらほら顔が真っ青になったわ この次が勝負よ
サウスポー 私左利き
サウスポー 私左利き
ピンチは私に私に任せてよ
書き直したものはご存知のとおり
飯田:よくあんなことが言えたなと
水野:熱同士のぶつかり合いじゃないですか
飯田:そうですね。その前から先生にはそういう温度とか熱は
何度か教えていただきました。詞ができると
「手渡しで渡したい。出来た時にすごく熱い思いがしたんだ
だからこれを、コピーやFAXで渡すと温度がどんどん下がってしまう。
だから手渡ししたいんだ」
水野:熱の伝達みたいなことがあったと
飯田:そういうことです。俺の熱い心が宣伝マン、営業マンに伝わり
ひいてはレコード店に伝わり、お客さんに伝わるんだっていうのは
よく言われましたね。
水野:阿久悠という作詞家は、デイレクターからどのように見えましたか
飯田:時代の飢餓感をキャッチする能力に長けている。
今、世の中に何が欠落してて
何が求められているかを考えながら物を作る
どちらかというと賛否両論の作詞が多いんですけど
今、ヒットチャートにないもの、流行ってないもの、
対極なものを作ろうよと
ピンクレディーはまさにそう。
糸井重里
沢田研二/TOKIO、OH!ギャル
歌の曲名を考えてくださいって依頼が来た
自分としても「人が作るんだからいいや」という
無責任な気持ちがあって、楽しかったんですよね。
「TOKIO」は糸井さん書いてくださいって言われて
そうか(笑)大変だと(笑)
「これは劇画ですよ」劇画のように歌詞を書けばいい。フィクション。
どんどん漫画を描き込んでくみたいに
「空を飛ぶ」って言っちゃったらあとはどんどん楽になる(笑)
その勢いでもう大げさに書けるわけですね
そのやり方は玄人にはちょっと思いつかないだろう
申し訳ございませんって気持ちで書いたんです
水野:誰に対してですか
阿久さんです(笑)
水野:阿久さんがおっしゃる「時代を食って物を書いていた」
これをもう少し見ていくと
世の中に何が起きているか、何を求められているのか
何が足りないのかを社会学者のように見て
その要素を自分の中に引き入れて、作品として構築して出す
阿久さんは、そう説明したと思うんです
自分がそうやってるんじゃないかと、あとで説明したのではないか
「時代と」っていう説明の仕方は、多分なんだけど
後で総まとめしたらそうなった(笑)
ああ女の時代だなとか、でも逆に言うと
そっからつまんなくなったんですよね。
「時代と」っていうニュアンスが入ってから、ちょっと啓蒙的になった。
典型が「OH!ギャル」
結局「今の世の中を解説しますとね」
水野:俯瞰(ふかん)になりすぎたってことですか
そうですね。俯瞰になりすぎたってのと利口になっちゃったから、
本当に書きたいことはなんだろうな感じになっちゃったんでしょうね
※youtubeでも「最もストーリー性の薄い曲」コメントが
内山田洋とクールファイブ/恋唄
阿久さんの詞を僕が3つ選ぶ企画があった時に
津軽海峡冬景色を入れたんですけど
「夢ん中」それと前川清さんが歌った..すごいんですよ
歌詞が「人前でくちづけたいと 心からそう思う」
書けないですよ。そこでおわらずに、余ったメロディ使って
「心からそう思う」歌になんないですよ(笑)
繰り返しだし蛇足だし。
でも前川さんが歌うとめちゃくちゃにいいんですよ
それを再発見したとき、この人やっぱヤケになってるな、
中から出したいものを出す場所を探してて
水野:自分の内面性が出てる作品が、結果的にウケてると
思いますね。演歌の方が出るような気がして。
水野:阿久さん結構入れてますよね。自分の思いを
小西良太郎
歌い手を語り部にして、自分の言いたいことを世の中に発信する
こう言うと歌い手さんに失礼に当たるかもしらんけど
彼の表現の道具だった。極端に言うとね
そこのところが決定的に違うと思います
水野:阿久さんご本人がそうおっしゃっていたのですか
そうです。
水野:時代が進むにつれ、シンガーソングライターが増えて
この小さな世界の中で言葉にして世の中に届けていくスタイルの
ミュージシャン、シンガーだったりが増える中で
阿久さんは何を考えてらっしゃったのですか
ひとつは「歌が痩せていく」
ヒットメーカーになる作詞家は10年いいとこですよ
79年に気になって
「どうするの?ちょっと休んだら」って言うと「なんで?」って
なんか、この作品のこれというのは言えないけど
少し見え見えになってる気がすると。本人には言わなかったけど
彼の詞は構造物で、コンクリートのガッチリした階段もついてる。
中に入っていくとコツンとあの人の世界に突き当たるのに
それが失せた、みずみずしさがなくなった。
彼ぐらい自分の書いた歌の解説をしている男はいないんじゃないですか
それは俺の仕事だろ、いい加減にしてよと(笑)
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いしわたり淳治
水野:阿久さんの歌詞を意識されることってありますか
今の音楽に圧倒的に欠けてるのは、映像的か否か
「上野発の夜行列車降りた時から」
もう映像が浮かんでるでしょ
今の音楽って「ひとのこころの 青い炎が」みたいな
映像浮かばないでしょ(笑)
概念的にどんどんなっていて、寂しかったらさみしいって書くし
だけど、かもめが飛ぶさまで映像的に伝えて
さみしいと感じるかどうかが、
あの時代の阿久さんを含めた歌詞のいいところ。
聞き手の参加意識に乗っかってるんですよね..
映像だけを浮かべて何かを感じるのが能動的
だけど「青い炎」を押し付けられるのは受動的。
もうのるかそるか、拒絶するのか受け止めるのかしかなく
そこすらもコントロールされている
言葉としての完璧な形。
シンガーソングライターは
「自分で書いたものが一番偉い認識」があって
作品って似てくるじゃないですか
それが拡大再生産されていくのはあまり健康的じゃない
いつか作家が作ったよくできた音楽みたいなものが
ちゃんと世の中を流れるような時代になって欲しいという気持ちはあります
水野:すごく難しい質問なんですが
なぜ阿久さんが、世の中からずれて行ったんだと思います?
作詞しかできない人って、いないと思うんですよ
作詞ができる人ってほかの企業に入ったら、すごく仕事ができて
出世できるんじゃないかって思うぐらい
やっぱり客観的でなくちゃいけないし
行動力がなくちゃいけないし、言葉に力がなくちゃいけない
ともすれば音楽業界が魅力的でなく見えた場合
才能ってもっともっと世の中に流出していくわけじゃないですか
ある意味阿久悠さんが作ってきた音楽は、とっても魅力的で
惹きつけられたがゆえにそこにたくさんの才能が向かってきて
ニューミュージックが生まれて飲み込んでいったのが、構図なのかもしれない
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がん闘病のさなか(2007.2.2)
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